2023年3月10日よりTOHOシネマズ系で上映が開始された映画「Winny」を見てきたので、その感想などを話します。業界人の端くれとして、当時の出来事がどのように描かれているのか気になったのは勿論ですが、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で支援を募り、映像化されたという特殊な制作経緯を辿っている作品であることにも興味・関心を惹かれました。*1
映像作品としての感想
まず本作品の映像作品としての感想ですが「思った以上によく出来ている」。クラウドファンディングで資金を調達したという制作経緯のため、限られた予算の中でどこまでエンターテインメントとして質の高いものが出てくるのか気になっていたのですが、実際見てみるとB級映画のようなチープさはゼロ。演出上、金子勇氏および弁護側を善とする二項対立にはなっているものの、ノンフィクション・ドキュメンタリーとしてよくできあがっていると思います。
見る前は「金子氏側に極端に肩入れしている内容になってないか」という懸念があったのですが、金子氏の家宅捜索の場面で「ダウンロードができない Winny2 を有していたこと」や、著作権制度の崩壊を示唆させる2ちゃんねるの発言をとりあげるなど、功罪の "罪" の部分にも多少なりフォーカスが当たっていたのは好印象でした。
また、作中の小道具も往年の名機NEC 8000シリーズと思わしきパソコンに当時主流だった Windows XP 搭載のノートパソコン、折りたたみ式携帯電話(ガラケー)、ネットランナー等に代表される当時のアングラ雑誌など、インターネット老人会と呼ばれる方々が感慨深くなるには十分なラインナップ。加えて、金子勇氏の遺品(おそらくラストに登場する「破損した眼鏡」)も小道具として使っているとのことで、リアリティにかなりこだわったのが窺えます。
業界人の端くれの目線から
ここからちょっと私の思い出話が少し入るのですが、実際に動いている Winny2 を見たのは大学生の頃。ちょっとアングラな趣味がある友人のパソコンで見せてもらったのですが「これがインターネット...!!」と、その雰囲気から近づきがたいものを感じたのを覚えています*2。
そこからセキュリティ系の専門家とのお付き合いが始まったり、情報モラル・情報リテラシーを啓蒙する草の根ネットワークに入ったりと、どちらかというと本作品で言うところの検察側の立場に近くなるのですが、その目線からだと開発者やそれに近しい人たちが Winny 事件レベルで世の中を騒がせることはなくなったものの、利用者側の情報モラル・情報リテラシーは当時からあまり変わっていないどころか、著作物との関係性に着目すれば当時より複雑になっている気がします*3。
利用者のユースケース拡大と、それに伴う技術的な情報セキュリティ対策や管理策の拡張は進んでいるものの、利用者のリテラシーがそこに追いついているかというと決してそうではないため、本作品のテーマである「Winny事件」が遺したものは何だったのか...と、改めて考える契機を与えてくれました。
そしてその答えは、金子氏が生前遺した言葉にヒントがあると、私は考えています。
金子 : なるべく若い世代のエンジニアが好きに開発できるようにして、わたしは邪魔をしないようにしている。何かを教えるというのでなく、彼らがのびのびやれる場をつくるのが、わたしの役目です。
(開発とは本来、新たな「気づき」を得る行為である。【対談】Winny開発者・金子 勇×インターネット寺院開祖・松本紹圭 - WIRED.jp より引用)
上記を趣旨とする言葉は、映画のラストで引用された無罪判決後の記者会見映像でも、金子氏は話されていました。
次世代の開発者たちが未来へ羽ばたけるよう、開発者と周りの人たちが自然と手を取り合える環境をつくり、共に問題解決できる社会。経営企画という今の立場や、プロボノ活動などの公共善を目的とする行為など様々な視点・立場から、力ある限りはこれを創り上げることに貢献し続けたいですね。