2023年11月25日に東北大学 片平キャンパスで開催された市民講演会「量子コンピュータとは」を聴講してきました。
お恥ずかしながら量子コンピュータの分野は、Google が2019年に行った「量子超越性 (量子コンピューターの性能が既存のコンピューターの性能を上回ること)」の実証や、2021年に IBM が商用の量子コンピューティングサービス「IBM Quantum」をリリースしたことなどをニュースを通じて知っているぐらいで、物性を含めたその仕組みや適用できる具体的な分野の理解は乏しい状態。
今回たまたま同僚から本講座を教えていただいたため、自身の学びを深めるために東北大学へ足を運びました。結論から申し上げると「分野の簡単な部分しか紹介できてないものの、大雑把な理解をするには丁度よかった」内容だったため、割と満足度高めです。
本記事では内容のダイジェストと、聞いている中で興味深かったポイントを紹介します。
- イベント概要
- 講演1「量子ソリューション拠点から社会実装の現場へ」 (東北大学大学院情報科学研究科 大関先生)
- 講演2「"超伝導" 現象を使った量子コンピュータ入門」(東北大学大学院工学研究科 山下先生)
- おわりに
イベント概要
本イベントは低温工学・超電導学会 東北・北海道支部および東北大学 金属材料研究所が年1回行っている市民講演会です。イベントページ記載の概要は以下の通り。
「量子コンピュータ」が新聞やSNS等のメディアで聞くようになりました。「なんか難しそう」「量子ってなんだろ?」「どんなメリットがあるの?」「仕事が奪われないのかな」などいろいろな考えがあると思います。今回は、量子コンピュータの専門家お二人をお招きして「量子コンピュータ」の中 (仕組み) と外 (使い方) についてやさしく解説頂きます。ちょっとでも興味があればご参加ください。なにか得るものがあるはずです。
引用元 : 【Web,現地】市民講演会「量子コンピュータとは」(11/25開催) | 国立大学法人東北大学
主催団体の通り、どちらかというと「物質・材料研究」のトレンドを市民に紹介するのが主目的。今回はテーマが「量子コンピュータ」ということで、社会実装を含む応用分野を情報科学の先生から紹介してもらうことで、講演会全体のバランスを取っている印象を受けました。身近な応用分野を通じて研究の有用性を認識させてから、仕組みの話に移る本イベントのアプローチ方法は個人的に正解だと思っています。
講演1「量子ソリューション拠点から社会実装の現場へ」 (東北大学大学院情報科学研究科 大関先生)
講演の一人目は情報科学研究科の大関先生。研究者でありながら、量子コンピュータを使ったソリューションを提供する株式会社シグマアイの代表としても知られている方ですね。
大関先生のお話は数回ほど聞いたことがあるのですが、今回は専門である「量子アニーリング方式 (量子力学を用いて最適化問題を解くアルゴリズムに最適化した量子コンピュータ)」を軸に、量子コンピュータの歴史から現状の使われ方、そして研究と社会実装の動向などをダイジェスト的に説明。
ダイジェスト的とはいえ、現在の電子で動くコンピュータや量子ゲート方式 (論理ゲート回路を量子力学の基本原理である「量子並列性」に合わせて最適化したもの) の量子コンピュータとの原理的な違いや、それに由来する得意分野/不得意分野の説明は「量子コンピュータ = 特定の問題であれば爆速」という誤った理解を解消するのには十分な内容。
併せて東北大学やご自身の会社で行われている研究およびソリューションや、暗号解読など量子コンピュータ分野の技術発展に伴うリスクにも触れられていて、バランスの取れた講演でした。自身の知識不足とはいえ、量子アニーリング方式と量子ゲート方式でも最適な分野が違うのは驚きましたね。
また、参加者に中高生がいたことを考慮し、学問を志す若者へのメッセージとして「今、その時代の最先端を知ることで、いつの日か社会貢献できる」と鼓舞するような言葉を残されていたことも印象的でした。
講演2「"超伝導" 現象を使った量子コンピュータ入門」(東北大学大学院工学研究科 山下先生)
講演の二人目は工学研究科 応用物理学専攻の山下先生。低温・超伝導分野の先生で、これを用いた量子コンピュータ (量子デバイス) の研究を進められているのだそうです。
講演の内容はエネルギー (振動) という切り口から量子力学と量子コンピュータについて触れられたもので、途中モックを用いた調和振動の説明や、そこから超伝導量子ビットを生み出す過程に結びつけるなど、難しい応用物理の話をなるべく分かりやすく説明する工夫が感じられた内容でした。
さすがに1時間程度の講演で量子力学や物性を含めた全ての講演内容の理解はできませんでしたが「量子回路の仕組み (物性を用いて量子力学の性質を再現しようとする試み)」や、物理や材料学の側面から技術的なブレイクスルーの余地が残されているのを知れたのはとても勉強になりました。
おわりに
量子コンピュータは近年ようやく実用化の目処が立ち、エンジニア向けに量子プログラミングができるプログラミング言語やライブラリが提供されるなど「Quantum Ready」と呼ばれるほどになりました。
今回のイベントの内容は学会などで取り扱われるような高度なものでは決してありませんでしたが、量子コンピュータを取り巻く現在の状況や東北大学で行われている研究内容などを幅広く知れて、満足度が高い講座でした。応用物理学など、普段では決して交流のない分野の方のお話を聞けるのもこういった講座のうれしいところですね。
自らの仕事に生かせる場面はまだ来ないとは考えてますが、これからのビジネストレンドを予測するためにも、量子コンピュータは引き続き注目し続けたい分野です。