たかげべら

Written by Takahito KIKUCHI

すくすくスクラム仙台の「教育心理学概論」を使ったワークショップに参加した話

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2024年2月20日に開催された、すくすくスクラム仙台「教育心理学概論を使って『人をより賢くするにはどうしたらいいのか』を探索するワークショップ」に参加してきましたので、その感想などを紹介します。

suku3rum-sendai.connpass.com

題材となった「教育心理学」そのものは教育・学校心理学にカテゴライズされる学問なのですが、すくすくスクラム仙台のようなアジャイル系コミュニティではチームビルディングや人材教育の切り口で時折話題に挙がっている模様。

以下の過去記事にあるとおり、私も社内でチームビルディングを主導する役割やこれを支援するワークショップの実施を任されることがしばしば。当該学問の考え方やアジャイル系コミュニティで何故それが話題なのかの片鱗を掴むために今回参加しています。

takagerbera.com

そもそも「すくすくスクラム仙台」とは

今回参加した「すくすくスクラム仙台」は、宮城県仙台市を中心に活動する、アジャイル開発および、その中でメインストリームとなっている手法「スクラム」を軸に、エンジニアの現場で使える様々な考え方やツールを探求する IT コミュニティです。

suku3rum-sendai.connpass.com

2024年現在、仙台で活動している IT コミュニティの中では歴史が古い方で、私が記憶している限り、活動開始は2013年ぐらいでしょうか。当時からすくすくスクラム仙台には何度か参加しており、マインドマップの活用法からオープン・スペース・テクノロジー*1など “場” をつくる手法の学習や取り扱う分野に興味関心を持つ方との交流に使わせてもらっています。

今回行われたワークショップについて

今回参加した勉強会では「人をより賢くするにはどうしたらよいのか」という問いに、教育心理学を使用しながらグループで何らかの答えを導き出す一連の過程を体験するワークショップを実施。何人かのグループに分かれたのち、メンバー全員で放送大学のテキスト「教育心理学概論」を読み進めながら、問いに対して答えを作り出していきます。

ワークショップの進行は後述する「知識構成ジグソー法」で行われたのですが、私が最終的に属したグループでは以下のような議論が行われ、普遍的なキーワードである「学び」でも様々な解釈があるのが分かり、とても勉強になりました。

  • 物事を認知する「枠組み」は個人ごとに異なるため、経験を蓄積して枠組みそのもをアップデートするプロセスが大事
  • 自身が物事をどう認知しているかは、枠組みを言語化できると把握しやすい
  • 経験を蓄積によって「とある物事に法則性があること」を理解するのが学びだが、認知バイアスが学びの邪魔をすることがある
  • 認知バイアスを超えるためにはメタ認知が必要だが、個人でそれを行うのは難しい。周囲へのシェアやフィードバックがある環境の方がバイアスを超えやすい。
  • 一人で得た学びは単なる経験則だが、それを集めて得た集合知は共通の学びとして、集団全体をアップデートするのに役立つ
  • 「賢さ」とは知識の量ではなく、状況に応じた最善手を即出せるセンスのようなもの。特定の状況に対して賢さを重ねていったものが「専門性」と定義できる。
  • 「専門性」は特定の状況に閉じたものなので、異なる分野で応用するのは基本難しい。しかし、枠組みのアップデートで別の分野でも使える法則性を見いだせるのが「真の賢さ」ではないか。
  • 「上司やできる人の振る舞いを見て学ぶ」システムは知識の伝達・熟達を行う観点では一定の有用性がある。工程の分割が極めて進んでいる今日の開発現場において、そのシステムをどう構築できるかは難しさがある。

ワークショップで特徴的だった「知識構成ジグソー法」

今回ののワークショップで特徴的だったのは、テキストの著者の一人である三宅ほなみ氏が考案した「知識構成ジグソー法」を採用していた点。

ni-coref.or.jp

下記5つのプロセスでインプットとアウトプットに加え、他のメンバーとの相互作用、そして内省までをコンパクトに行えるため、ワークショップの手法として洗練されている印象を持ちました。

  • 問いに対して自身が分かっている範囲での「仮説構築」
  • 問いの参考となるテキストを読み込む「エキスパート活動」
  • 別のグループとメンバーをシャッフルして、得た知見の説明と知見の統合を行う「ジグソー活動」
  • 導いた答えを全メンバーへアウトプットする「クロストーク」
  • グループで導いた答えと自らの仮説を照らし合わせる「振り返り」

進め方がシンプルで使いやすいだけでなく、与える問いが何でもよいのも好印象です。開発チームのチームビルディングでこれを使うならば「リーダブルコード」や「達人プログラマー」のような汎用的なコーディングに関する読み物や「SRE サイトリライアビリティエンジニアリング」のような分野特化の読み物を、もう少しチームビルディングに寄せる場合は「チームトポロジー」や「エンジニアリング組織論への招待」などを題材に問いを作ると良いかもしれない...とアイデアが浮かんでいます。

おわりに

今回、すくすくスクラム仙台の勉強会を通じて普段馴染みのない「教育心理学」を使ったワークショップに参加してきましたが、哲学的な学びが深められただけでなく、チームビルディングの現場で使えるヒントが得られ、学び多い時間を過ごせました。

現在の勤務先はフルリモートで個人の都合に合わせて柔軟に働ける反面、メンバー同士の相互作用が薄くなりがちなのが懸念点。時折こうしたワークショップを企画してチーム全体で熱量を高めたいとも感じたので、得たものを持ち帰って社内で応用したいと思っています。

*1:主催者は場の目的のみを共有し、その後の話し合うテーマも含めて参加者に進行を委ねるグループディスカッションの一手法