たかげべら

Written by Takahito KIKUCHI

フルリモートワーク企業でエンジニアチームの1on1に立ち向かった話

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現在、現職である株式会社ヘプタゴン (以下「ヘプタゴン」)では Business Development (BizDev) として、経営管理や事業企画などを幅広く担当しているのですが、実施業務の中に「エンジニアとの 1on1」があります。

この記事では、勤務先で行っている 1on1 の取り組みと、その際に私がメンバーとコミュニケーションをとる際に心がけていることや、約1年間回して得られた感想などを紹介します。

本記事は Engineering Manager Advent Calendar 2023 の8日目に寄稿した記事です。私のロールは厳密にはエンジニアリングマネージャーでないのですが、組織論や現場のエンジニアをどうまとめていくかなど数々の知見が提供されており、とても勉強になります。

qiita.com

(前提) ヘプタゴンの勤務スタイル、従業員数について

1on1 の取り組みを紹介する前に、勤務先であるヘプタゴンの勤務スタイルと従業員数について触れなくてはなりません。話の前提として、このような組織であることをご認識ください。

ヘプタゴンでは、創業以来から現在に至るまで完全リモートワーク (フルリモートワーク) を採用。週に2回行うオンライン会議ツールを用いた定例会を除き、メンバーが直接顔を合わせることはなく、個々人のライフスタイルを尊重しながら業務を行っています。

また、ヘプタゴンは「小さなチームで生産性を最大化する」ことをモットーとしており、従業員数はわずか8名。「直接顔を合わせない」と書くと「メンバーどうしの関係性が薄情なんじゃないか?」と思うかもしれませんが、メンバーそれぞれが他のメンバーの解像度を高く持ち、互いにリスペクトできるからこそ、現在のスタイルが成り立っています。

heptagon.co.jp

私はこのような組織で、約1年前からエンジニアメンバーの 1on1 を担当しております。

2023年12月時点での 1on1 実施スタイル

この記事を作成した2023年12月時点では、ヘプタゴンの 1on1 は以下のように実施してます。

  • 私がメンターとなり、エンジニアメンバーとの対話を行うのが目的。
  • 隔週1回ペースで実施。1回あたりの時間は基本30分。予定に影響がなければ、時間が多少前後することは許容する。
  • 実施にあたって特に話題は設けず、メンバーが今気になっていることを話してもらう (会社目線で話しておくべきトピックがある場合はその限りではない)。
  • 私は基本的に聞き専。何か回答を求められた場合は「私はこう思う」と付け加えて、メンバー自身が答えを引き出すせるように促す。
  • メンバーの発言は基本否定せず、すべて受け止める。仮にネガティブな内容だったとしても、その発言や行動の裏にある「Why」を観察する。
  • 実施後は当該メンバーと私のみが閲覧できるメモを残し、あとで振り返られるようにする。

上記のスタイルで約1年間、1on1 を担当し続け、実施した回数はのべ150回超分換算で4500分オーバー (!!)

それなりに時間をかけてやっている自負はあるのですが、より大規模なチームのマネージャーはこれ以上の時間と手間暇をかけて行っているのでしょうね...。

現時点で私が 1on1 で心がけていること

ここからは記事作成時点で、私が 1on1 で心がけていることを何点か紹介します。人間同士のコミュニケーションに正解はないので、良い落とし所を探りながら 1on1 に望んでいます。

メンバーに興味を持ち「敵ではない」ことを認識させる

イメージ図その1

よくある 1on1 の失敗はメンターとメンティーの間で指示する/されるの上下関係があると考え、実施してしばらくは、私自身がメンバーに利害関係なしに話を聞く姿勢を示すことから始めました

1on1 実施の意図や時間の使い方を浸透させる意味もあるのですが、まず「あなたの敵ではない」とアピールし続け、じっくりと話を聞く土壌作りを行います。ここで難しいのは「あなたのために時間を確保してあげてます」のような、押しつけがましい姿勢になってはいけないこと

これはカウンセリングマインドにおいて「自己一致 (純粋性)」と呼ばれるもので、私が難しいと感じるポイントなのですが、信頼や理解を促すには行動で示すしかないので、まずはメンターである私自身が「あるべき姿」であり続けるよう心がけています。

フルリモートワークなので 1on1 も当然オンライン会議ツール越しなのですが、オフラインと同じく、目の前の人を意識した「あほうとり*1」にならないコミュニケーションも大切です。

「わからないこと」を「わからないまま」にしないコミュニケーションを取る

イメージ図その2

グループ会社であるデジタルキューブの方には特に間違われるのですが、実は社歴が一番浅いのは私で、自社の知識が最も乏しい...と思ってたのですが、1on1 を始めると既存のメンバーでも分からないことがそれなりにあると発見。

代表が行った意思決定の背景やちょっとした発言の意図、イベントの意義など、メンバー視点では断片的にしか見えてなかったり、これにメンバー各人の興味・関心や性格に由来する期待や不安が合わせて発生し、自身の中で状況や感情を咀嚼できてなかったり。対面だと伝わるものがリモートワークだと伝わっていないと感じた瞬間です。

このような状態ではパフォーマンスを出すことが難しいし、もしかしたら会社に不安を感じて退職...という最悪の事態も考えられるため、可能な範囲で「わからないことはわからないままにしない」コミュニケーションを取るよう心がけています

この時、重要なのが「回答に『私はこう思う』を付け加えること」と「一般論や正論で答えないこと」の二つ。先述した通り、重要なのは「メンティー自身で答えや落とし所を見つけてもらうこと」なので「これが答えね、ハイ終わり」になるのは好ましくありません。不安払拭のために「ポジティブに考えてみよう!」などリフレーミングの提案などを行う場合もあります。

このような「わからないこと」を前提とした、建設的なコミュニケーションが 1on1 に求められると、長らく実施して感じています。

約1年間、1on1 を回してみて得られた感想

イメージその3

こうしてヘプタゴン内で始めた 1on1 ですが、約1年間回してみて、代表やメンバーからは「自分の話を聞いてくれて助かっている」「考えていることを棚卸しする時間になっている」など、概ね好意的な感想を得られました。

現在、目標管理制度 (MBO) の導入をはじめとする人事評価制度の検討段階で、メンティー視点でプレッシャーがなかったのもこの評価に繋がっていると考えています。当初は 1on1 を MBO 導入の布石にする予定だったのですが、諸事情によって MBO の導入は後回しに。

1on1 の導入自体も大きな変化だったため、ここに MBO も導入したらメンバーの負担は相当なものだった...と考えると、まず1年間かけて 1on1 を定着させたのは、組織事情を考えると悪くない選択だったと今では思います。

おわりに

本記事では勤務先であるヘプタゴンの 1on1 にフォーカスを当てた話を紹介しましたが、1on1 で本来期待される役割 (メンバーの成長支援) はまさにこれからという段階です。

とはいえ、メンバーとの対話を通じてチームをより良いものにする、メンバー自身で気付きを得るきっかけを作る、何よりこれらを通じて私自身が成長する実感を得られたのは、1on1 を始めて良かったと感じています。

本記事が 1on1 の導入や推進、メンバーとの接し方に悩める方の一助となれば幸いです。

*1:欠伸をする、頬杖をつく、腕組みをする、時計を見る、リズムを刻む(貧乏揺すりをする)の、対面で行ったら失礼にあたるコミュニケーションの総称